漢方専門医 西本隆先生のコラム漢方待合室からKANPO COLUMN

膀胱炎の今と昔

漢方薬ってなに?

まず初めに、漢方薬ってなに?というお話から始めたいと思います。
某放送局の朝の連続テレビドラマ、毎回楽しみにされている方も多いかと思いますが、この4月から放送が始まった「らんまん」は、植物学の権威、牧野富太郎先生が主人公ですね。
先日、その主人公(ドラマでは槙野万太郎という名前になっていますが)が明治初頭に東京の長屋に住むようになった時、そこに生えていた「ドクダミ」について、「これは十薬ともいって、乾かして煎じると、できものがなおったりするんじゃ(正確ではありませんが)」と長屋の人たちに説明する場面がありました。たしかにその通りで、ドクダミ(十薬)の葉は漢方薬の材料としても使われていて、利尿作用や抗菌作用があるとされています。

それでは、このドクダミを皆さんのお家で乾燥して煎じたものは、はたして漢方薬と言えるでしょうか? 答えはノーです。 漢方薬とは、ある疾患または症状の治療のために、複数の(ごく稀に単一のこともあります)薬効を持った生薬を、一定の割合で混合したものの総称で、ドクダミやゲンノショウコ(下痢に効くとされています)など単一の生薬を主に伝承(言い伝え)や個人の勘によって用いるものは、「民間薬」と定義されているからです。

漢方薬は、古くは中国の漢の時代(約2千年前)からさまざまな処方が作られてきました。
今でも風邪の初期などに使われ麻黄湯(まおうとう)や葛根湯(かっこんとう)という漢方薬は、後漢時代末期(西暦200~210年頃)に作られたとされる「傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)」という本に記載された処方ですし、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という疲労回復に用いられる処方は、1231年に李東垣(りとうえん)が書いた「内外傷辨惑論(ないがいしょうべんわくろん)」で発表されたものです。今、私の手許にある書籍を見てみると、実に7000余りのさまざまな漢方処方が記載されていますが、実際にはそれ以上の数の処方が作られてきたものと考えられます。

さて、現代の日本では、医師や薬剤師が生薬を組み合わせてそれを患者さんが煎じて服用する「煎じ薬」と、あらかじめ決まった処方からエキスを抽出して粉薬や錠剤、カプセル製剤にしたものがあり、後者は、健康保険で薬価が決められた(つまり健康保険を使うことのできる)医療用漢方製剤と、その他の一般用漢方製剤に分かれます。また、一般用漢方製剤とは少し違ったカテゴリーで「一般薬」と呼ばれる漢方薬がドラックストアなどで販売されています。

それでは、医療用漢方製剤の方が一般用漢方製剤よりエライのか??というと、そんなことは決してありません。なぜか?ということを説明しだすと話が長くなりますので、非常に端的に言うならば、医療用漢方製剤も一般用漢方製剤も用いている生薬に差異があるわけではなく、それぞれのルールに従って申請・承認されたものなのです。

分かりやすいように説明すると、中学校のクラスの生徒を並べて、「〇〇君と〇〇さんは小学校の時から知っているから医療用のクラスね、あ、△△君と△△さんもご両親と顔見知りだから医療用クラスに入ってね。はい、他の人たちは一般用クラス!」というような感じです。一般用漢方製剤も医療用と同じく、使われる生薬の種類や量は、国の法律で厳格に決められており、製薬会社サイドで、「この生薬最近値段が高いから別の安いのに変えておこう」とか「この生薬の量はちょっと多いので今回は少なめに入れておこう」なんてことは決してできないのです。

膀胱炎の検査と治療

さて、前置きが長くなりました。
実は、私が医師になった今から40年前は、今よりも膀胱炎にかかる方が多くみられました。そして、急性期にきちんと治療を受けなかったことにより、慢性的に膀胱炎を繰り返す患者さんが今よりもずっと多くおられました。
それが温水洗浄便座が一般的になって以来、急激に膀胱炎の患者さんが減ってきたのが事実です。

しかし、それでも、特に女性の場合は膀胱炎にかかり易い体の仕組みをもっていることから、疲れがたまって免疫力が落ちた時などに膀胱炎の症状が出ることがままあります。
残尿感がある、排尿痛がある、などの症状で患者様が来院された場合は、まず、尿検査を受けていただき、尿中の白血球が増えていたり細菌が認められたりすれば、膀胱炎と診断します。治療手段の第一は抗生剤の投与ですが、炎症治癒を早めるために、猪苓湯(ちょれいとう)や五淋散(ごりんさん)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)などの漢方薬を併用することも多くあります。

膀胱炎の一般薬

しかし、これらの症状があってもごく軽度であったり、あるいは、医療機関をすぐには受診できない場合に、ドラックストアなどで一般薬を買い求められる方もおられるかと思います。私も漢方専門医の立場から一般薬の処方内容を拝見することがありますが、「あ、この処方にはこんな工夫がされているのか」と勉強になる事も多々あります。

例えば、ウワウルシやキササゲといった他の漢方では使われていない独特の生薬があります。
ウワウルシと聞くと、我々日本人は、漆の仲間?と思ってしまいますが、これは、クマコケモモの葉のことで、学名のuva-ursi(ウーウァ・ウルスィ)は、uva=「ブドウ」、ursi=「熊の」即ち、「熊のブドウ」という意味で、熊が好んでこの実を食べるといわれたことからこの名がついたようです。私も実はよく知らなかったのですが、調べてみると、殺菌作用、利尿作用があり、尿路感染症に使われる生薬だということです。
また、キササゲはノウゼンカズラの果実で「梓実(しじつ)」とも呼ばれ、利尿作用を期待して民間薬として使われていた歴史があるようです。もちろん、この二つの生薬の他に、沢瀉(たくしゃ)や茯苓(ぶくりょう)などの利尿作用を持つ生薬や、芍薬(しゃくやく)などの鎮痛効果を持つ生薬などが一般薬にも使われており、先人の工夫に驚かされます。
また、膀胱炎を繰り返すことが多いと、耐性菌により抗生剤が効きにくくなる場面も多く、そんな時にも、これらの一般薬に期待がかかります。

もちろん、一番大事なことは、日ごろから、規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの良い食生活を心がけて、膀胱炎にならないように免疫力を維持することが大切ですが、それでも、あれ、膀胱炎かな、と思ったときには、決して我慢をせずに内科、泌尿器科で診察を受けることをお勧めします。
また、急には診察に行けない、症状が出た時すぐに治療薬がほしい、等の場合に備えて、効能・効果をよく読んで膀胱炎に効く一般用医薬品を常備薬として手許に用意されておくのも良い方法かと思います。

西本隆先生のプロフィール

【専門医】

  • 日本東洋医学会 漢方専門医 指導医
  • 日本内科学会 認定内科医

【役職】

  • 医療法人岐黄会西本クリニック 理事長・院長
  • 神戸大学医学部非常勤講師
  • 関西医科大学非常勤講師
  • 日本東洋医学会代議員・同兵庫県部会会長
  • 日本中医学会理事
  • 兵庫県臨床漢方医会理事
  • 国際薬膳食育学会理事・講師

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